死因贈与と登記
「死因贈与」とは、死亡を原因として贈与することです。
例えば、父親の生前に息子と「父親が死亡したら息子に土地を贈与する」という死亡を原因とした贈与契約を交わすことで、父親の死亡をきっかけとして息子に土地が贈与されます。
これに似たもので「遺贈」があります。
遺贈は、死亡を原因として贈与をする点では死因贈与と同様ですが、贈与者と受贈者の合意(契約)に基づく死因贈与とは異なり、遺贈は遺言者(=贈与者)の一方的意思表示(単独行為)により行う贈与です。つまり、遺贈は遺言によって行う贈与です。
また、遺贈は遺言によるものなので、遺言の方式に従って自由に撤回することができます。
そして死因贈与も撤回できる点は遺贈と同様なのですが、遺贈とは異なる点があります。
それは、「負担付死因贈与」の場合であって、受贈者が負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合には、特段の事情がない限り、撤回ができないと考えられています(最判S57.4.30)。受贈者に負担を履行させるだけさせて、契約は撤回するというのは認められないということです。
「死因贈与」と「遺贈」によって不動産を贈与(遺贈)する場合にはそれぞれ登記が必要になるのですが、ここでも一つ大きな違いがあります。
それは死因贈与の場合には「所有権移転の仮登記」を申請することができる、ということです。
死因贈与と仮登記
遺贈の場合と異なり、死因贈与の場合には「所有権移転の仮登記」(始期付所有権移転仮登記)を申請することができます。
つまり、死因贈与の場合には、贈与者の気が変わった、相続人が相続登記を入れてしまった等のトラブルを防ぐことが可能になります。
なぜ、遺贈の場合には仮登記ができないのでしょうか?
遺贈の場合は、遺言者(遺贈者)が生きている間はいつでも遺言の方式により撤回が可能であることと、受遺者は遺贈の目的物を取得する期待権すら有しない(遺贈は遺言者が誰にも知らせずに遺言を書くことも可能であることから、受遺者は遺言書の存在(内容)が明らかになるまで財産をもらえるとの具体的な期待もしない。)とのことから、遺贈による所有権移転仮登記はできないとされています。
なお、死因贈与の仮登記は、贈与者と受贈者の共同申請で行うのが原則ですが、公正証書で死因贈与契約書を作成した場合で、贈与者が死因贈与に基づく所有権移転仮登記をすることを認諾する旨の記載がある場合には、当該公正証書を「贈与者(仮登記義務者)の承諾証明書」として受贈者(仮登記権利者)が単独申請することができます。(昭54.7.19民三4170)
この単独申請の場合には、贈与者の印鑑証明書は不要です 。
死因贈与と登記
死因贈与に基づき所有権移転登記をする場合、相続人全員と受贈者で共同申請するため、相続人全員の印鑑証明書を添付する必要がありますが、次のような例外もあります。
1、死因贈与契約書が公正証書で作成されていて、執行者が指定されている場合
➡執行者のみの印鑑証明書を添付すればOK
2、死因贈与契約書が私署証書で作成されていて、執行者が指定されている場合
➡契約書に押印された印鑑について贈与者の印鑑証明書を添付する
又は
贈与者の相続人全員の承諾証明書(印鑑証明書付)を添付する
なお、受贈者が執行者に選ばれている場合、実質的には単独申請となるため、上記2のような見解がなされたとされています。