受託者が単独で信託財産を処分できることの弊害

家族信託(民事信託)は、委託者が受託者に対し財産を託し、受託者が信託目的に従って受益者のために信託財産を管理・処分・運用・承継する制度です。

例えば、父が所有する不動産を息子に託したとします(父と息子で信託契約を締結)。

この場合、息子(受託者)が父(委託者)の代わりに財産を管理・処分していくことになりますので、たとえ父の判断能力が低下(認知症等)しても息子は自らの判断で信託財産を処分(売買等)していくことができます。

これを後見制度で行おうとすると、不動産の処分に裁判所の許可が必要(許可が下りるとは限らない)になったり、定期的な後見人報酬を支払う必要があったりと、柔軟な動きがとりずらくなってしまいます。
(詳しくは「家族信託(民事信託)と後見制度の比較」をご覧ください。)

 

さて、しかし、この家族信託(民事信託)において、受託者が上記のように独自の判断で信託財産を処分するのには、少し注意が必要です。

次のケースで考えてみましょう。

 

父A(75才)には3人の子供B・C・Dがいます。

父Aは賃貸不動産(アパート)を所有していますが、最近は体の不調を感じるようになり、またテレビや雑誌で認知症のことが頻繁に取り上げられるようになってきていて、父A自身も少し認知症になるかもしれないという心配もしています。

そこで、家族信託(民事信託)を利用して、宅建士の資格を持っている息子Bに賃貸不動産の管理・処分等を任せることにしました。

委託者兼受益者:父A
受託者:B
信託財産:アパート、現金

 

この場合、受託者であるBが信託財産である賃貸不動産を管理・処分していくことになります。

受託者Bは信託財産を管理・処分するにあたって、信託契約で定めた信託目的に沿うような形で受益者のために動く必要がありますので、自分(受託者)の利益だけを考えて管理・処分することは許されません。

 

さて、もし、本事例においてBが信託財産である賃貸不動産を第三者に売却した場合、そしてそれが信託目的に沿う行動だった場合、どうなるでしょうか?

もちろん、法的にはBは受託者なので信託財産を独自の判断で処分することはできます。
そして、その売却益である金銭は信託財産になりますので、受益者である父Aの利益になります。

しかし、これは信託の側面から見た場合は何も問題はありませんが、家族の心情的な面から見た場合、いささか問題が生じる可能性もあります。

 

本来、父Aが死亡した場合、賃貸不動産は相続財産として3人の子供(B・C・D)に相続されるはずでした。

しかし今回、信託の仕組みの中でBは独自の判断でその賃貸不動産を売却してしまいました。

たとえ父Aが認知症を発症して判断能力が無くなっていたとしても、Bは受託者として信託財産である賃貸不動産を信託目的に従って独自の判断で売却できますので問題ありません。

 

この時、本来賃貸不動産を相続するはずだったCとDの心情はどうなるのでしょうか?

もしかしたら、CとDは将来この賃貸不動産を生計の頼りに考えていたかもしれません。

CとDとしては「なんで売却してしまったんだ!」と憤るかもしれませんし、それがきっかけで家族に軋轢が生まれてしまう可能性だって十分考えられます。

家族信託(民事信託)は家族が一丸となって行うべきものです。
家族がよりよい生き方、よりよい相続のカタチを実現するために信託を利用するはずです。

信託を使えば法的に問題のないスキームが組めたとしても、それが家族の仲を引き裂いてしまうのであれば、信託の存在意義は価値のないものになってしまいます。

 

家族信託(民事信託)は家族全員の心情面も考慮しなければいけない。

信託は委託者が受託者に財産を託し、受託者は受益者のために信託財産を管理・処分します。 

しかし、上記のように、信託の仕組みとしては問題ないけれど、家族の心情面的には問題が生じてしまうようなこともあるかと思います。

特に不動産の共有回避対策として信託を利用する場合には注意が必要です。

そうならないためにも、信託を設定する際は必ず家族全員で家族会議をすることや家族全員を信託関係者として関与させること、受託者が管理処分行為をするにあたって受益者や信託監督人の同意を必要とする旨の定めを信託契約に設けるなどの対策も必要になってくると思います。

信託事務が円滑公正に進むように、そして、家族間でのトラブルが生じないように信託を設計する必要があります。

 

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