遺言執行者の復任権(民法改正関連)
遺言執行者から依頼を受けて進めていた遺産承継業務で、金融機関から「遺言執行者から委任を受けてるようですが、遺言執行者は忙しくて業務ができない等の理由はありますか?」との質問を2つの金融機関から立て続けにされました。
民法改正前は、遺言執行者の復任権について「やむを得ない事由がなければできない」という制限が設けられていたため、遺言書ではあらかじめ「第三者に委任をすることができる」旨の定めを置くことも多くありました。
そうすれば、やむを得ない事由がなくても第三者に委任をすることができるようになります。
つまり、民法改正前は、下記のいずれかの事由がなければ遺言執行者は第三者にその任務を委任することが原則できませんでした。
【遺言執行者の復任権】(民法改正前)
① やむを得ない事由があること
② 遺言に別段の定めがあること(第三者に委任ができる旨 など)
しかし、民法改正により「自己の責任で」第三者に執行業務を委任することができるようになったため、上記①②のいずれかの要件がなくとも遺言執行者から第三者に対して委任が可能となりました。
つまり、遺言書にわざわざ「第三者に委任をすることができる」旨の定めを設けなくても、そして「やむを得ない事由」がなくても第三者に任務を委任ができるようになったわけです。
では、なぜ金融機関から冒頭のような質問がされたのでしょうか。
それは、民法改正後の「自己の責任」で第三者に執行業務を委任できる旨の規定は2019年7月1日以降に作成された遺言書にしか適用されないためです。
今回の遺産承継案件における遺言書は2019年7月1日以前に作成されたものなので上記①②のいずれかの要件がなければ、遺言執行者は第三者に任務を委任できないことになります。
そして、今回の遺言書には上記②の定め(第三者に委任ができる旨)が設けられていなかったため、金融機関はやむを得ない事由があるかどうかを確認してきた、ということになります。
民法改正前と改正後で取り扱いが異なるので注意が必要ですね。
【参考条文】
改正前 民法第1016条
遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。改正後 民法第1016条
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。