勝手に契約内容を変更できないことは家族信託のメリットなのか?

※ 委託者兼受益者は親、受託者は子供の典型的な自益信託を前提に以下記載していきます。

 

民事信託(家族信託)のメリットの1つとして、遺言書との比較で次のようなことがよく言われます。

 

遺言書は遺言者が自由に内容を書き換えられるが、信託ではそれを制御できる

 

遺言書は遺言者1人だけで全て内容を決めることが可能です。
また、一度書いた遺言書の内容を変更することも1人で可能です。

一方、民事信託(家族信託)は委託者と受託者の契約(合意)で行います。
委託者と受託者の合意で成立した信託契約の内容を変更する場合、委託者(兼受益者の)1人だけで変更することを回避することも可能です。

 

遺言と民事信託(家族信託)ではこのような違いがあるため、上記のような謳い文句が民事信託(家族信託)のメリットの1つとして言われるわけです。

 

 

でもですよ、普通に考えれば、遺言と同じように、民事信託(家族信託)でも委託者である親からすれば自由に撤回や変更ができたほうがいいはずです。

民事信託(家族信託)を検討している親が、「遺言書と違って自分だけの意思では内容を変更したりできないのか!やった!」とはならないはずです。

信託契約の内容を親が一人で自由に変更や撤回ができないのであれば、これは委託者のメリットではなく、どちらかと言えば信託財産の最終的な行き先の帰属権利者や残余財産受益者(以下、「帰属権利者等」と言います。)にとってのメリットです。

 

 

民事信託(家族信託)をやるかどうかは、委託者(ここでは親)の意思が最重要です。

では、なぜ委託者のメリットにはならない謳い文句が、民事信託(家族信託)を勧める際の謳い文句として使われるようになったのか。

 

理由の1つに「民事信託(家族信託)の相談には受託者候補である子供が来ることが多い」というものが挙げられると考えています。

つまり、司法書士事務所に相談に来た受託者候補の子供に対して「民事信託(家族信託)は委託者1人で内容を勝手に変更できないようにできる。」とアドバイスすることで民事信託(家族信託)を進める意思を高めようとすることがあるのではないかと。

特に、遺言代用信託において、帰属権利者等に受託者が指定されることは珍しくなく、当該受託者からすると最終的に自分が信託財産を取得することができるのであれば、その内容を勝手に変更されるのは嫌だな、という欲求が顕在化してもおかしくはありません。

その受託者の欲求に司法書士は無意識的に応えるような形で民事信託(家族信託)のメリットとして上記謳い文句が使われるようになった可能性はある気がします。

帰属権利者等になりうる受託者に対してメリットのあることをアドバイスする傾向があった(ある)のではないかということです。

 

 

遺言書は1人で作成することが可能ですが、その内容を考える時に家族の意見などを加味する方もいらっしゃいます。

そのような場合には、勝手に遺言者が遺言書の内容を変えてしまい、しかもその内容が家族で話し合った内容と全然違う形になっているようだと、家族としては「せっかく話し合ったのになんだよ。」とあまりいい気はしないかもしれません。

家族全員で決めたことを勝手に変更しないでほしい、という希望に着目すれば、民事信託(家族信託)を利用することで、委託者(兼受益者の)1人だけで勝手に変更できないようにすることのメリットはあるかもしれません。

 

個人的にはそれでも、生活や経済状況が変わったり、気が変わったりすることはあるわけで、やはり委託者である親の自由にするべき部分もあって然るべきではないかと思いますが。

いずれにせよ、民事信託(家族信託)を利用する場合には、冒頭の謳い文句だけを頼りにせず、どのような目的で信託を行うのかを明確にし、他の制度との比較検討を行い、委託者本人はもちろんのこと、その家族が円満な悔いのない人生を送れるように進めることが必要になると思います。

 

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