相続放棄と遺産分割協議の違いの比較
・遺産分割協議で相続を放棄できますか?
・相続放棄すれば遺産分割協議をしなくてもいいですか?
・相続放棄と遺産分割協議の違いは何ですか?
このようなご質問をよく頂きます。
相続放棄と遺産分割協議は全く違う制度ですので、簡単に違いを見ていきましょう。
【相続放棄と遺産分割協議】
比較①:家庭裁判所での手続きが必要かどうか
比較②:相続人全員で行う必要があるかどうか
比較③:債権者に対抗できるかどうか
比較④:期間制限はあるかどうか
比較⑤:相続人としての地位を失うかどうか
まとめ:比較表(相続放棄と遺産分割協議)
① 家庭裁判所での手続きが必要かどうか
相続放棄は家庭裁判所において行う手続きです。
相続放棄をする相続人が家庭裁判所に対して「相続放棄の申述申立て」を行うことで、プラスの財産・マイナスの財産すべてについて放棄する(相続放棄)という効果が法的に得ることができます。
一方、遺産分割協議は家庭裁判所を関与させることなく、相続人によって行うものです。
相続人全員で決めた内容を、遺産分割協議書として残すことで、裁判所の関与させることなく相続人だけで完結することができます。
ちなみに、遺産分割協議の中で“財産を一切相続しない”ということもできますが、下記に記載しているとおり、対外的な効果は生じないため、法的に相続を放棄する相続放棄とは異なります。
② 相続人全員で行う必要があるかどうか
相続放棄は、相続放棄をしたい者だけが単独で行うことができます。
一方、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。
相続人全員で行わなかった遺産分割協議は無効となります。
(「遺産分割協議は相続人全員で行う必要がある?」をご覧ください。)
③ 債権者に対抗できるかどうか
例えば、被相続人に100万円の借金があった場合で考えてみましょう。
相続放棄をした者は、相続人ではなくなるので、債権者から100万円の取り立てをされた場合、相続放棄をした旨を主張(相続放棄受理証明書を提示することで主張します。)すれば当該100万円について1円も支払う必要はありません。
放棄をしたということは、借金100万円のマイナスの財産も放棄したことになります。
一方、遺産分割協議の場合、仮にAとBの相続人がいる場合に遺産分割協議の中で「被相続人の財産は全てAが相続する。」という内容の遺産分割協議を成立させた場合、全ての相続財産はAが相続することになりますので、Aが債務も相続することになります。
しかし、遺産分割協議はあくまで内部的な取り決めなので、対外的に主張することはできません(マイナスの財産について。)。
被相続人の借金が100万円ある状態で相続が発生した場合、AとBは法定相続分の2分の1ずつ(50万円ずつ)の借金を相続することになります。
つまり、AB間の遺産分割協議では「Aが相続財産を全て相続する」としたとしても、債権者はBに対して50万円の返済を請求することができます。
ここで、仮に、Bが50万円を債権者に支払った場合には、BはAに対して「遺産分割協議ではAが財産を相続すると決めたんだから、俺が債権者に弁済した50万円返してよ」と請求することができます。
遺産分割協議は相続人間の取り決めなので、債権者に主張できませんが相続人に対しては主張することができる、というわけです。
④ 期間制限はあるかどうか
相続放棄は、原則として「相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」に裁判所に申立てをする必要があります。
特別の事情があれば、この3か月の期間を過ぎてしまっても相続放棄を受け付けてもらうことができますので、3か月を経過してしまっている方は、速やかに専門家に相談することをおススメ致します。
さて、一方、遺産分割協議は相続放棄のような期間制限はありません。
被相続人の死亡日から数年、十数年、それ以上経過していても行うことができます。
⑤ 相続人としての地位を失うかどうか
相続放棄をした相続人は、その相続については初めから相続人でなかったものとみなされます。
つまり、相続人ではなくなります。
一方、遺産分割協議の中で、相続財産を一切相続しないと決めた者(相続人間の取り決めでは相続財産を放棄すると定めた者)でも、相続人としての地位は失うことはありません。
⑥ 比較表(相続放棄と遺産分割協議)
相続放棄 | 遺産分割協議 | |
裁判所での手続き | 必要 | 不要 |
相続人が単独でできるか | 〇 | ×(相続人全員で行う) |
債権者に対抗できるか | 〇 | × |
期間制限 | 相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内 | 期間制限なし |
相続人としての地位 | 失う | 失わない(遺産分割協議で、財産を相続しないと決めた者について。) |