受託者による受益者代理人の指定の可否
家族信託(民事信託)における受益者代理人とは、受益者による権利行使が困難な場合や、受益者が複数いるために、個々の受益者による自由な権利行使が信託事務の円滑な運営を阻害しかねないような場合などに、受益者の権利保護・信託事務の円滑化のために設定される者です。
そして、受益者代理人は信託行為(信託契約や遺言)において定める必要があります。
「受益者代理人を○○に指定する。」という具体的な定めでもいいですし、「○○は受益者代理人を指定する。」というように受益者代理人を指定する方法を定めることも可能です。
この時、受益者代理人を指定する者を受託者とすることができるのか?という問題ですが、できないと考えるべきです。
受益者代理人は受託者への監督権限も有します。
つまり、受託者は受益者代理人に監督される者です。
その監督される者(受託者)が、監督する者(受益者代理人)を指定することができるとなると、受益者代理人による受託者への監督義務が果たせるのかどうか甚だ疑問です。
また、受益者代理人が就任した場合には、その代理される受益者は、単独受益者権を除き、権利を制限されてしまいます。
そうなると、例えば、受託者にとって気に食わない受益者を排除する意図で、受託者が受益者代理人を指定し、受益者の権限を不当に奪おうとする可能性も考えられます。
以上のことから、受託者は受益者代理人を指定することは避けるべきと考えます。
なお、受託者による受益者代理人の指定権を認めた上で、受益者代理人が適任でない場合には解任できるような仕組みを設定すれば問題ないという考えもありますが、個人的には否定的です。