家族信託と信託目録~受益者の秘匿性の是非~

【目次】

家族信託と遺言書の秘匿性の比較

家族信託と信託目録

信託目録とは?

信託目録と当初受益者

信託目録と後継受益者

信託目録と帰属権利者・残余財産受益者




① 家族信託と遺言書の秘匿性の比較

遺言書の内容を公開したいと思う人はいるでしょうか?
おそらくいないでしょう。

自分の財産を死後、誰にどのような割合で相続(遺贈)させるのか、遺言者が生きている間はプライバシー保護の観点からも秘密にしておきたいと思うのが当然だと思います。

また、遺言書の内容によっては、財産をもらえる相続人はいいですが、財産をもらえない相続人や、他の相続人よりも少ない財産しかもらえない相続人は、その遺言書に不満を持ち、新たに遺言書を書かせたり、遺言書を改ざんする等の可能性も否定できません。

遺言書の内容を公開すると、相続人間での軋轢が生まれる可能性も十分に考えられます。

ちなみに、自筆証書遺言の場合は自分で書いて自分で保管しておけば、誰にも内容を知らせないことも可能です。
また、公正証書遺言であれば、公証人及び証人(2人)に内容は知られてしまいますが、その内容が公開されることはないですし、公証人のお墨付きをもらった上で遺言書原本は公証役場で保管されます。


さて、家族信託・民事信託では、その信託契約に遺言の機能を持たせることもできます。

このような信託を「遺言代用信託」と呼んだりしますが、信託契約書にこの遺言の機能を持たせることで信託契約書が遺言書の代わりになるわけです。

 

ここで遺言代用信託についての信託法の条文を見てみましょう。

(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)
第90条 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

1 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
2 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託

 

例えば、委託者兼受益者が父親、受託者を息子とする信託を設定したとします。

この時、父親が死亡した場合に信託を終了させるとし、信託財産の権利帰属者を母親にしておくことで、父死亡による財産承継を信託によって可能にしています。


② 家族信託と信託目録

遺言代用信託は、上記のように信託契約に遺言の機能を持たせることで、委託者死亡による財産承継を遺言書ではなく信託契約で可能にしています。

相続財産として不動産がある場合、遺言書によってその承継先を決める場合には、その内容を登記する必要はありません。
しかし、家族信託・民事信託では、信託財産として不動産がある場合には信託登記をする必要があり、信託目録によってその内容が公示されるようになります。

 

冒頭でも述べたとおり、遺言はその内容は公開されることはありません。
しかし、遺言と同じ機能を有した信託契約の内容は登記制度(信託目録)によって公開されます。

信託財産として不動産が信託され、それが信託登記によって登記された場合には、「信託目録付き」の登記簿謄本(全部事項証明書)を取得すれば誰でも信託の内容を見ることができます。

言うなれば、誰でも信託契約(という名の遺言書)の内容を見ることができるということです。

では、家族信託の場合には、その内容が他人に全部知られてしまうのかというとそうではありません。
それについては、後述します。


③ 信託目録とは?

上述したように、信託財産に不動産があるときには、受託者の分別管理義務倒産隔離機能の一環としても信託登記をする必要があります。

そして、信託登記をすると、登記官はその信託の内容を記録した「信託目録」を作成しなければいけません。(信託登記簿の参考例はこちらをご参照ください。)

 

不動産登記規則176条
(信託目録)

登記官は、信託の登記をするときは、法第97条第1項各号に掲げる登記事項を記録した信託目録を作成し、当該目録に目録番号を付した上、当該信託の登記の末尾に信託目録の目録番号を記録しなければならない。

 

不動産登記法97条
(信託の登記の登記事項)
                
信託の登記の登記事項は、第59条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
① 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所
② 受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め
③ 信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
④ 受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
⑤ 信託法(平成18年法律第108号)第185条第3項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨
⑥ 信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託であるときは、その旨
⑦ 公益信託ニ関スル法律(大正11年法律第62号)第1条に規定する公益信託であるときは、その旨
⑧ 信託の目的
⑨ 信託財産の管理方法
⑩ 信託の終了の事由
⑪ その他の信託の条項


信託目録には、具体的な信託財産(不動産・預貯金など)は通常登記されませんが、委託者や受託者、受益者その他の信託に関する内容は、基本的には登記することになります。

もちろん、信託契約の条項を全て登記しなければいけないわけではなく、上記法律に則ってればいいわけで、なにを登記するかは司法書士の考え方によって異なる部分かと思います。

信託目録は登記官が作成する、と条文上なっていますが、その基となる内容は全て司法書士が作成することになります。



④ 信託目録と当初受益者

信託目録には、当初受益者は記録されます。当初受益者は絶対的登記事項です。
しかし、受益者を定める方法の定めがある場合や、受益者代理人が登記される場合等には、当初受益者を登記しないことができます。

不動産登記法97条2項
前項第2号から第6号までに掲げる事項のいずれかを登記したときは、同項第1号の受益者(同項第4号に掲げる事項を登記した場合にあっては、当該受益者代理人が代理する受益者に限る。)の氏名又は名称及び住所を登記することを要しない。

信託では、どのような目的で信託をするのかということを明確にするために「信託の目的」が登記されます。

受託者は当該信託目的に従って信託事務を遂行するわけですが、もちろん、信託の目的は信託目録として公示されるので、見る人が見ればどのような信託なのかすぐにわかります。

例えば、障がい者を支援するための信託や、子供や孫への教育資金援助型の信託など、プライバシー保護の観点が高い内容であれば、誰がその信託の受益者なのかが公示されてしまうと、人権上もよろしくありませんし、無用なトラブルの元になりかねません。

そのような当初受益者を秘匿したい場合などには、受益者代理人等を定めることで当初受益者を登記簿上公示する必要がなくなります。


⑤ 信託目録と後継受益者

受益者連続型信託(信託法91条)のように、受益者死亡により当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定めがある信託の場合、その後継受益者に誰がなるのか信託目録に登記(記録)することになります。

なお、当初受益者と異なり、後継受益者が絶対的登記事項であるかどうかは疑義が生じるところですが、現段階では公示性・特定性の観点から後継受益者を登記するという方針の方もいるかと思います。(※)
(後継受益者を登記すべきかどうかは司法書士によって異なる部分でしょう。)

もし、後継受益者を登記する場合、「その他の信託の条項」欄に登記することになるでしょうか。
そして、誤解を恐れずに言えば、当該後継受益者は相続制度で言うところの相続人(受遺者)と同様の存在です。

冒頭でも述べたように、遺言書の場合では、誰に相続(遺贈)させるのか公示されません。信託を設定する委託者としては、この後継受益者を登記簿上秘密にしたいという思いもあるでしょう。

そのような場合には、次のように、後継受益者を具体的に誰なのか登記する信託目録に登記せずに、信託契約書の条項を引用する方法で登記することも現状では可能とされています。

しかし、このような秘匿型(省略型)の登記は信託目録の公示性を無視しているため推奨されている方法ではありません。
上記のような信託目録で登記している場合には、後続の登記の前提として更正登記(省略している部分を反映させたもの)が必要とする見解もありますので、弊所ではこのような登記申請は採用していません。

【記載例】

後継受益者については、平成〇〇年〇月〇日東京法務局〇〇公証役場作成の第〇〇号「不動産及び金融資産管理処分に関する信託契約公正証書」第〇条第〇項乃至第〇項記載のとおりとする。

 

 

 

※ 「信託目録の理論と実務」(渋谷陽一郎著)P55-56より

相対的登記(記録)事項とは、「信託財産の管理方法」「信託の終了の事由」「その他の信託条項」などの登記事項として、信託行為に特段の定めが存在するような場合で、かつ、当該信託行為が全体の登記申請構造に影響を与えうる場合、必要的に記録すべき事項を言う。

その意味では、広義の必要的記録事項といえる。

たとえば、当初信託設定時における、受託者交代手続や受益者変更手続などに関する信託行為による特約などの具体的な定めが相対的記録事項に該当しよう。

特約により信託のデフォルトルール(信託行為の特約がない場合の基準としての法定事由)を変更しうる場合が相対的記録事項としての代表的なものであり、信託実体上における当該特約の存在がある場合にはじめて登記事項となるという意味で、相対的なものである。・・・・・・・・・本来は、広義の必要的記載事項は、それを遺漏した場合、信託登記申請時における却下事由を構成するはずである。

しかし、報告型式の登記原因証明情報において、実務上、信託契約書の信託条項に関する情報のすべてを提供せず、信託目録と信託目録と同一内容を記すだけである状況からすれば、登記官は、信託実体上において必要的記録事項が、申請人による提供情報以外に存在するか否か、の可否を判断することができない。

そこで、現実的には、必要的記録事項の遺漏なき抽出は、申請人と登記官を介在する、資格者代理人の執務規律に期待せざるを得ないことになる。


⑥ 信託目録と帰属権利者・残余財産受益者

帰属権利者や残余財産受益者の規定についても、上記後継受益者の考え方と同様でしょう。

登記する場合の信託目録の記載例としては、次のようになるかと思います。

本信託が終了した場合の残余の信託財産は、平成〇〇年〇月〇日東京法務局〇〇公証役場作成の第〇〇号「不動産及び金融資産管理処分に関する信託契約公正証書」第〇条第〇項乃至第〇項記載のとおり、残余財産受益者または帰属権利者に承継する。

 

なお、このような秘匿型(省略型)の登記は信託目録の公示性を無視しているため推奨されている方法ではありません。
上記のような信託目録で登記している場合には、後続の登記の前提として更正登記(省略している部分を反映させたもの)が必要とする見解もありますので、弊所ではこのような登記申請は採用していません。

 

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