家族信託における倒産隔離機能とは?
家族信託の一つの機能として「倒産隔離機能」というものがあります。
信託に組み入れた財産(信託財産)は、受託者名義で受託者が管理・処分することになりますが、受託者の固有財産とはなりません。
さらに、信託財産は委託者や受益者からも独立した財産として扱われるため、「誰のものでもない財産」という特殊な財産になります(信託財産の独立性)。
倒産隔離機能はよく「信託財産は委託者や受託者の固有財産ではなく、委託者や受託者が破産したり差し押さえを受けても、その影響は信託財産には及ばない」などと説明されたりします。
倒産隔離機能は、「委託者に対する債権者」及び「受託者に対する債権者」との関係でその機能を有しますが、特に「受託者に対する債権者」との関係において最も顕著な機能を有するとされています。
それでは、 倒産隔離機能と信託当事者の関係を見ていきましょう。
委託者の債権者との関係
委託者が受託者に対して信託した信託財産は、委託者の固有財産から離脱し、委託者に対する債権者は当該信託財産に対して強制執行等ができなくなります。
また、委託者が破産しても、信託財産は破産財団に組み込まれることはありません。
但し、この倒産隔離機能を利用して、委託者が債務の弁済を免れるために信託を設定した場合、不当に債権者の利益が害されてしまうため、「詐害信託」として当該信託は債権者によって取り消される可能性があります。
家族信託を悪用することはできませんよ、ということです。
受託者の債権者との関係
信託財産は委託者同様、受託者からも独立しています。
受託者は固有財産を所有する傍ら、信託財産の名義人となり信託事務を執行する権限を有するため、次の2種類の債務を負う可能性があります。
① 信託とは関係ないところで負担した固有の債務
② 信託事務執行で負った債務(詳細は「信託財産責任負担債務とはなんですか?」をご覧ください。)
②の債務については、信託財産に属する財産を用いて弁済することができますし、受託者の固有財産から弁済した時は、その分信託財産から償還を受けることもできます。
しかし、①の債務については、受託者の固有財産から弁済すべきであり、信託財産から弁済することはできません。①の債権者も、信託財産が受託者名義だからと言って、信託財産を引き当てにすることはできません。
信託財産は受託者の財産ではないので、自分の利益のために信託財産を用いることは許されません。
信託法23条ではこのことにつき「信託財産責任負担債務に係る債権(信託財産に属する財産について生じた権利を含む。)に基づく場合を除き、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。)又は国税滞納処分(その例による処分を含む。)をすることができない。」と定めています。
また、受託者が破産した場合でも「受託者が破産手続開始の決定を受けた場合であっても、信託財産に属する財産は、破産財団に属しない。」と信託法25条に規定されています。
さらに、受託者の死亡により信託の任務が終了した場合も、「受託者死亡により受託者の任務が終了した場合には、信託財産は法人とする」(信託法74条)とされ、信託財産は受託者の相続財産にも含まれないことが明示されています。
これらはいずれも信託財産の独立性(倒産隔離機能)の現れです。
受益者の債権者との関係
信託財産は誰のものでもない、という説明はされていますが、それは受益者が信託財産を所有しているわけではないという意味であって、受益者は信託財産についてなにも有しないかというとそうではありません。
受益者は信託財産から生じる利益を受け取る権利(受益権)を有しています。
(詳細は「受益権と受益債権の違いは何ですか?」をご覧ください。)
そして、受益者の債権者は当該受益権に対して差押えが可能です。
また、受益者が破産した場合、受益権は破産財団に組み入れられますので、所有権やその他の債権と同様に破産管財人が換価処分をした上で、債権者への配当に回されることになります。
仮に、委託者が「信託には倒産隔離機能があるから」という理由だけで自らが委託者兼受益者となり、信託を設定したとしても、結局は受益権に差押えされてしまうので委託者の計画は達成されないことになります。
一方で、委託者と受益者を別にした場合(他益信託)は委託者の債権者から逃げ切れるのではないかと思うかもしれませんが、その場合には贈与税の問題が生じますし、わざわざ信託を使って行うスキームではありません。
家族信託は、家族間で財産を「守る」「活かす」「遺す」という制度なので、それを不当な目的で利用することはよろしくないのは言うまでもありませんね。