信託財産に現金を入れる必要はある?

基本的には現金信託財産に入れることが望ましいと考えます。

 

不動産を信託したいのですが金融資産は持っていませんという依頼者の方は珍しくありません。 

民事信託・家族信託において、受託者がその信託事務を遂行する上で、信託財産を管理・処分するための諸費用(信託登記費用、不動産の建て替え・修繕費、公租公課等)が生じます。

あらかじめ金銭を信託財産に入れておけば、その中から諸々の費用を支出することができるので、受託者は信託事務をスムーズに進めることが可能です。

しかし、委託者が、信託するほどの金銭を持っていない場合、受託者は信託事務遂行上発生する費用をどこから支払えばいいのでしょうか?

この場合の信託事務の費用について、信託法(48条)では大きく分けて次の2つを想定しています。

受託者の固有財産から支払う
 →後日、受益者又は信託財産から償還を受ける

受益者から費用の前払いを受ける
 
→受益者との合意が必要

②の場合は、受託者は自腹を切らなくていいのでいいですが、①の場合は受託者の自腹です。つまり、まずは受託者が立て替えて、後で受益者又は信託財産から償還を受けるという形です。

託事務費用を受託者の固有財産から支出した場合について、もう少し細かく見ていきましょう。

受託者の費用償還請求

① 受益者への償還請求

受益者との合意に基づいて、受託者が支出した費用の償還を受けることができます。

但し、あくまで受益者との合意が必要です。

また、信託行為において「受託者は、信託事務の処理に関する費用について、受益者に対して(合意なしに)補償を請求することができる。」などの定めはできないとされています。

これは旧法では認められていたのですが、信託行為の当事者ではない受益者(※)に勝手に負担を強いるのはよくないという意見が多かったため、新法では「受益者の合意」を必要としました。

なお、これについての定めがある信託法485項には「別段の定め」を置くことは想定されていないので、受益者の合意を排除することはできないとされています。

 

※ 信託契約や遺言信託は、受益者の関与なく進めることが可能です。

 

② 信託財産から償還を受ける

信託財産に金融資産(金銭等)があれば、受託者はそこから支出した分を回収すればいいのですが、信託財産に金融資産がない場合には、受託者は信託財産を換価処分することができるとされています。

但し、当該換価処分をすることによって信託の目的を達成することができなくなる場合には換価処分できません。

不動産信託のみの場合には、不動産を換価処分することは信託目的達成を阻害することになるので、このような場合には信託財産から費用の償還を受けることは難しいでしょう。

信託の終了

受託者が、信託財産から費用の償還を受けようとしたけれど、信託財産では費用の償還に不足している場合、受託者は委託者及び受益者に次の事項を通知し、一定期間を経過しても委託者又は受益者から償還を受けられない時は、受託者は信託を終了させることができます(信託法52条)

・信託財産が不足しているため費用等の償還を受けることができない旨
・受託者の定める相当な期間内に委託者又は受益者から費用等の償還がされない時は信託を終了させる旨

まとめ

家族信託において、金融資産を信託することは非常に有効です。
そして、個人的にも金融資産は信託するべきだと思います。

しかし、誰もが金融資産を有しているとは限りません。
不動産はあるけど金融資産はない、という方も大勢いらっしゃいます。

ご家族の想い、委託者の想いが家族信託を使えば実現できるのに、「金融資産がないなら家族信託はできません。」とアドバイスすることが専門家として正しいとは思えません。

金融資産がないならないなりの対処法を考えるべきですし、ご家族や親族の協力を仰ぐこと等も考慮して検討することが必要だと思います。
もちろん、無理に家族信託をすることが正解とも思えません。

遺言成年後見などの方法も視野に入れながら、総合的な判断をすることが司法書士として必要なのではないでしょうか。 

  1. 信託財産責任負担債務ってなんですか?
  2. 信託契約書は公正証書で作成しなければいけませんか?
  3. 受託者として信託事務を遂行する自信がないのですが・・・?
  4. 受益者連続型信託の期間は無制限にできますか?
  5. 信託管理人ってなんですか?
  6. 信託監督人ってなんですか?
  7. 受益者代理人ってなんですか?
  8. 単独受益者権とはどのような権利ですか?
  9. 受益権と受益債権の違いは何ですか?
  10. 残余財産受益者と帰属権利者の違いは何ですか?
  11. 受益者として指定された者の承諾は必要?
  12. 受託者に司法書士等の専門職が就任することは可能ですか?
  13. 預貯金を信託財産として信託できますか?
  14. 信託事務処理代行者とは何ですか?
  15. 家族信託を利用した場合、遺留分対策はしなくてもいいですか?
  16. 家族信託における倒産隔離機能とは?
  17. 委託者の年金を信託財産として設定できますか?
  18. 詐害信託とはどのような信託ですか?
  19. 家族信託と遺言はどっちが優先する?
  20. 信託財産に現金を入れる必要はある?
  21. 受託者には報酬を支払う必要がありますか?
  22. 家族信託にかかる税金(課税関係)について教えてください。
  23. 信託契約と遺言信託はどのように使い分ければいいですか?
  24. 未成年者は受託者に就任できる?
  25. 家族信託をした場合、税務署への届出は必要ですか?
  26. 遺言信託の受託者は、自分が受託者であることをどうやって知りますか?
  27. 将来取得する予定の財産を信託財産にすることはできますか?
  28. 指図権者とは何ですか?
  29. 家族信託はいつどんな時に終了しますか?
  30. 信託事務を行う受託者が暴走した場合、どうすればいいですか?
  31. 信託銀行の遺言信託と家族信託における遺言信託の違い
  32. 受託者は信託監督人や受益者代理人になれますか?
  33. 受益者複数の場合の税務(贈与税)について教えてください。
  34. 民事信託(家族信託)と商事信託はどっちを利用すればいいですか?
  35. 委託者が破産する前に、家族信託の倒産隔離機能を利用すれば財産は守れますか?
  36. 目的信託とはどのような信託ですか?
  37. 信託財産は遺産分割協議や遺言書の対象財産となりますか?
  38. 認知症になってからでも家族信託は利用できますか?
  39. 信託開始後、受益者を変更することはできますか?
  40. 未成年者や認知症で判断能力のない者でも受益者になれますか?
  41. 受益者にとって不利な信託の変更等が行われた場合、受益者として対抗する方法はありますか?
  42. 受託者が死亡した場合、信託はどうなりますか?
  43. 委託者が死亡した場合、委託者の地位は相続されますか?
  44. 受託者が借り入れをした債務は、債務控除できますか?
  45. 受託者が判断能力の低下(認知症等)や病気になった場合、信託はどうなりますか?
  46. 家族信託(民事信託)では、全ての財産を信託しなければいけないですか?
  47. 受託者を法人にするメリットは何ですか?
  48. 一般社団法人と株式会社はどちらが受託者に適していますか?
  49. 資産家やお金持ちじゃないと家族信託は利用できないですか?
  50. 遺言代用信託とは?
  51. 家族信託(民事信託)を利用すれば、後見制度を利用する必要はないですか?
  52. 受託者は委託者の代わりに遺産分割協議に参加できますか?
  53. 家族信託(民事信託)をして財産が受託者名義になった場合、受託者に贈与税や不動産取得税はかかりますか?
  54. 受託者が死亡した場合、なにをすればいいですか?
  55. 受託者を2人選任することはできますか?
  56. 家族信託の受託者が死亡した場合、受託者の地位は相続されますか?
  57. 家族信託における受益者代理人はどのような場合に定めておくといいですか?

お気軽にご相談ください

会社のこと、不動産のこと、相続・遺言のこと、家族信託のこと、その他お悩みのこと。

完全予約制

お電話でのご予約受付:042-850-9737(平日9:30~20:00)

メールでのご予約・お問合せ(24時間受付中)

土日祝日相談、早朝・夜間相談、当日相談、出張相談

無料メール法律相談24時間受付中!

メールでの無料法律相談!お気軽にご利用ください。