詐害信託とはどのような信託ですか?
詐害信託とは、委託者が債権者を害することを知ってする信託のことです。
信託法では、この詐害信託は裁判上で取り消すことができるとされています。(信託法第11条)
これは民法における詐害行為取消権(※)制度の特則として信託に対応させたものです。
信託においては、委託者の財産を信託財産として設定すると、当該財産は委託者の監督下から離脱(倒産隔離機能)し、受託者が受益者のために当該信託財産を管理・処分することになります。
そして、最終的には残余財産受益者・権利帰属者に給付されることが予定されているため、信託は委託者の財産を減少させる法律行為であるとも言えます。
極端な例ですが、委託者がその所有する100万円を全て信託財産として信託を設定するとなると、委託者の債権者は当該100万円をアテにすることができなくなります(実際はそんな単純ではありませんが、イメージしやすい例としてとらえて頂けると幸いです。)。
そうなると委託者に対する債権者の債権を満足させるだけの財産がなくなってしまい、債権者の利益を害するおそれがあります。
そのため、委託者が債権者を害することを知りながら信託を設定した場合には、受託者がそれを知っている(悪意)かいない(善意)かにかかわらず、債権者は受託者を被告として、信託の取り消しを裁判所に請求することができるとされています。
但し、受益者が現に存する場合において、その受益者の全部又は一部が、受益者としての指定を受けたことを知った時又は受益権を譲り受けた時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、当該取り消しはできません。
善意の受益者については保護しようということですね。
受益者に対する詐害行為取消請求
信託財産の取り戻し(信託法第11条4項)
詐害信託の場合、悪意の受益者が受託者から信託財産に属する財産の給付を受けたときは、債権者は、受益者を被告として、詐害行為の取消しを裁判所に請求することができます。
受益権の譲渡請求(信託法第11条5項)
詐害信託がされたことについて一部の受益者が善意の場合、信託の取り消しが認められません。しかし、それでは他の悪意の受益者まで信託の利益を享受してしまいます。
そこで、委託者の債権者は悪意の受益者に対して受益権を委託者に譲渡するように請求することができます。
これは善意の受益者が存在する場合には取消権を行使できないとしても、詐害信託について悪意の受益者に対しては受益権の譲渡請求をできるようにしたものです。
上記の「信託財産の取り戻し」の場合には、悪意の受益者に対して既に給付された財産の返還を請求できるとされていますが、「受益権の譲渡」では未給付の分について対応できるとされています。
※民法424条(詐害行為取消権)
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。