受益者複数の場合の贈与税について教えてください。
まず原則として、自益信託(委託者=受益者)であれば、財産権は移転していないものとして贈与税は課税されませんが、他益信託(委託者≠受益者)の場合には委託者から受益者への贈与とみなされて、贈与税が課税されます。
税務上、受益者が信託財産の所有者として課税関係を考えます。
では、委託者と受益者が一部だけ同じ場合はどうでしょうか?
例えば、夫が委託者で、受益者を夫と妻の2名にするような場合です。
夫の信託財産(現金)から、認知症である妻の生活費や介護費用等を工面したいという場合には、受益者に妻を加えることも考えられるでしょう。
また、障がい者である者の生活のために、当該障がい者を受益者にすることなども考えられます。(信託契約は委託者と受託者で行うので、受益者の意思能力は問題になりません。)
しかし、このような場合、夫については委託者兼受益者として贈与税の課税対象にはなりませんが、妻については他益信託となるので贈与税の対象になります。
ここで考えるのが「扶養義務」です。
扶養義務者が被扶養者の生活費等に充てるためにしたものは、通常必要と認められる範囲であれば贈与税の課税対象にはならないとされています。
「扶養義務者権利者間における生活費または教育費に充てるための贈与で通常必要と認められる範囲であれば、贈与税の課税対象とならない」(相続税法21条の3第1項2号)
つまり、夫の妻に対する扶養義務の範囲内であれば、贈与税は理論上かからないはずです。
そこで「妻の有する受益権の割合は、夫の扶養義務の範囲内とし、必要な都度金銭を給付することとする。」などとすることによって、直ちに贈与税の課税対象にはならないと考えられます。
但し、当該規定は扶養義務の範囲が不明確などとして否定的な意見もあります。
実際にこのスキームを組む場合には、税理士や税務署と確認しながら進めるべきかと思います。