信託事務処理代行者とは何ですか?
民事信託・家族信託において、受託者に就任するのは通常一般の方です。
信託制度は受託者の信頼を基礎とする財産管理制度であるため、家族信託における受託者の存在意義は非常に大きなものと言えます。
しかしながら、信託事務遂行には専門的知識を有することも多くあり、また、複雑化した現代社会において信託事務を受託者一人で全て処理するということは現実的ではありません。
そこで、次のいずれかに該当する場合には、信託事務の処理を第三者(信託事務処理代行者)に委託することができるとされています。
①信託行為に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めがあるとき。
② 信託行為に信託事務の処理の第三者への委託に関する定めがない場合において、信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき。
③ 信託行為に信託事務の処理を第三者に委託してはならない旨の定めがある場合において、信託事務の処理を第三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるとき。
信託事務処理代行者の適格性
信託事務を委託する第三者の条件としては、次の2点が挙げられます。
・信託の目的に照らして適切な者
・受託者が監督できる者
但し、次の場合に信託事務を委託された第三者は、この2つの条件を満たす必要はありません。
・信託行為において指名された第三者
・信託行為において受託者が委託者又は受益者の指名に従い信託事務の処理を第三者に委託する旨の定めがある場合において、当該定めに従い指名された第三者
なお、受託者は、当該第三者が不適任若しくは不誠実であること又は当該第三者による事務の処理が不適切であることを知ったときは、その旨の受益者に対する通知、当該第三者への委託の解除その他の必要な措置をとらなければならない(信託行為によって別段の定め可能)とされており、また、受託者は善管注意義務を負っていることからも、上記2つの条件を無視することは健全な信託とは言えないでしょう。
また、信託事務処理代行者を選任する際の「信託事務処理を第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき」とは、受託者が自ら行うよりも他人に託した方が費用や時間などの点で合理的である場合(※)や、社会通念上、受託者の本来的事務ではなく、受託者によって処理することが期待されていない場合(※2)などが想定されています。
※ 信託財産の運用状況に関する報告書を受益者に送付する場合に、当該送付を運送業者に委託する場合など。
※2 土地信託においてビル建設を行うために建設業者に委託する場合や、当該ビルテナントの募集広告を広告代理店に委託する場合など。
誰を信託事務処理代行者に選任するか。
法務的な部分に関しては弁護士や司法書士などの専門家に委託することや、信託不動産の管理については不動産管理会社、税務書類の作成や税務署への提出書類作成に関する信託事務については税理士に委託する、などのケースが見られます。
また、介護・医療に関する事務処理が必要な場合は、社会福祉士などの専門家も委託先として考えられます。
なお、信託事務処理代行者に支払う報酬も考慮しながら、誰を選任するかを考えなければいけません。
当該者に対して報酬を支払った場合、信託財産がどれほど残るのか。
潤沢な信託財産があれば別ですが、そうでない場合には事務処理を委託する前にしっかりと計算する必要があります。
その結果、能力の高い専門家以外の者を委託先の選択肢として考えることも必要になるでしょう。
◆参考条文◆
信託法28条、35条