遺言と異なる内容の相続(遺産分割協議)はできますか?
可能ですが、下記のようにいくつか注意点があります。
なお、すでに遺言の内容を実現している場合や、相続人以外の受遺者がいる場合などには、税金の問題も出てきますので、税理士と相談の上進める必要があります。
【遺言と異なる遺産分割協議の注意点】
① 遺言で遺産分割協議をすることを禁じられていないこと
② 遺言執行者がいる場合にはその同意があること
③ 相続人以外の受遺者がいる場合にはその同意があること
④ 相続人全員の同意があること
⑤ 相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)の場合
① 遺言で遺産分割協議をすることを禁じられていないこと
被相続人は、遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができます(民法第908条)。
しかし、当該遺産分割の禁止が専ら相続人の利益のためにされたことが明らかな時には、相続人の協議によって遺産分割を行うことは妨げられないとされています。
また、事情変更により遺産分割を禁ずる必要がなくなったときには、相続人の協議による分割や、審判による分割も可能と解されています。
② 遺言執行者がいる場合にはその同意があること
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。
そして、遺言執行者がいる場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないとされています(民法第1013条)。
つまり、遺言執行者は、遺言の内容を実現するための責任者のようなものです。
そのため、遺言執行者がいる場合に、遺言と異なる内容の遺産分割協議をする場合には、遺言執行者の同意を得る必要があります。
③ 相続人以外の受遺者がいる場合にはその同意があること
遺言で、相続人でない第三者に財産を相続(遺贈)するとされている場合には、当該受遺者の同意も得る必要があります。
なお、当該遺贈が特定遺贈(財産を特定して承継させる)なのか包括遺贈(割合を指定して承継させる)なのかによっても進め方が変わってくると考えられます。
特定遺贈と異なり、包括遺贈の包括受遺者は相続人と同一の権利を有します(民法第990条)。
つきましては、遺言と異なる遺産分割協議を行う場合には、包括受遺者に遺贈を放棄してもらうか、遺産分割協議に参加してもらうかの選択が必要になるでしょう。
一方で、特定遺贈の場合、受遺者は遺言者の死亡後はいつでも遺贈の放棄をすることができるとされています(民法第986条)ので、放棄の意思を取り付けることで足ります。
④ 相続人全員の同意があること
遺産分割協議は相続人全員で行う必要がありますので、遺言と異なる内容の遺産分割協議を行うことに相続人全員が同意している必要があります。
なお、包括受遺者が絡んでいる場合には、包括受遺者の協力も必要になるでしょう。(上記③参照)
遺産分割協議に関しては「遺産分割協議は相続人全員でする必要がありますか?」をご覧ください。
⑤ 相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)
遺言書の内容がいわゆる「相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)」の場合には、遺言書と異なる遺産分割協議は不可とした平成3年最高裁判例があります。
【最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁】
『「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。』
この場合、不動産の登記手続きにおいては、一旦、遺言に基づいた登記申請をする必要があり、その上で贈与なりで所有権を移転させることになります。
しかし、登記実務上、相続させる旨の遺言と異なる内容を遺産分割協議によって実現させることも可能とする見解もありますので、実際に進める場合には司法書士に相談することをおススメいたします。
2021年12月23日更新