再転相続における相続放棄の熟慮期間
再転相続(※)が生じた場合の相続放棄の熟慮期間について、令和1年8月9日に最高裁が新たな判断を示しました。
※ 再転相続とは、Zについての相続人Aが、Zの相続について承認や相続放棄など選択をしないまま死亡し、当該相続人Aの相続人であるBがAの権利(Zの相続について承認するか相続放棄するか選択する権利)を承継すること。
今回の最高裁の事例は、伯父の債務について相続人となった父(伯父の兄弟)が、その相続について知らないまま死亡し、父の娘(伯父の姪)が当該伯父の債務について相続した場合の相続放棄の熟慮期間が争われました。
【今回の事例】
伯父死亡
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伯父の子供が相続放棄したことによって、兄弟(本件の主役である娘の父)が相続人になる
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父が当該相続について承認・相続放棄の選択をしないまま死亡
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父の娘(伯父の姪)が相続人になる
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娘に不動産競売の強制執行文書の通知あり
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娘は伯父の債務を認識してから3か月以内に相続放棄の申立て
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債権者が相続放棄の熟慮期間が過ぎているとして、娘の相続放棄を争う
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最高裁で娘の相続放棄(債務の相続を認識してから3か月以内の相続放棄申立て)を認める。
熟慮期間とは、相続放棄ができる期間のことです。
原則として「相続の発生を知ったこと、かつ、その相続の相続人であることを知ってから3か月以内」が相続放棄の熟慮期間です。
そして、再転相続の場合の熟慮期間は「再転相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する」とされています。
今回のケースでは「再転相続の場合に、再転相続人が債務の相続を知ってから3か月以内の相続放棄が認められるのか?」ということが争点でした。
そして、最高裁はそれを認める判断をしました。
実務の現場では、熟慮期間が経過した相続放棄でも認められることは多々あります。(司法書士の腕にもよりますが。)
しかし、相続放棄の申立てが認められたからといって、それが絶対的な効力を有するわけではなく、債権者などはその相続放棄について有効・無効の有無を裁判で争う事もできます。
今回、最高裁レベルで相続放棄の申立てを柔軟に認める姿勢を示したことは非常に大きな意味を持つと思います。
相続が発生した場合、葬儀や各種相続手続き、49日など多くの手続きが必要です。
その心身ともに疲弊している相続人に「3か月以内に相続を承認するか相続放棄するか決めてくださいね」というのはかなり酷だと思います。
今後も、相続放棄について柔軟な判断がされることを期待したいですね。